ざっと分かるセトノブログ

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2021年1月13日東浩紀『ゲンロン戦記「知の観客」をつくる』感想

◆感想

88点
 自分にはかつて大学で哲学を学んだが、そこで言葉の無力さ、文系学者の独りよがりで言動一致しない姿に失望した過去があります。

 あのまま批評、言論、言葉の力を信じ続けてたらどうなったか、さらにもし上手く問題を消化できてそのまま進んでたとすると、たぶんそれに付随したビジネスもやりたくなるだろうな、と考える最近です。今作は「ありえたかもしれない可能性」として読みました。
 そういう頭で読んだ本書は、好きだった世界の懐かしさと運営伝記?のような感覚で読めました。
 世の中で起きている事をうまく言い表したその凄さとかね。
 あとは事業をやるうえでそんな感じなのか、という発見も横道ながら勉強になりました。

 同質な他者で集まろう、異物を排除しようという世の中で、あえて時代と逆行するかのような作者の姿は眩しく、常識に凝り固まってしまった己の在り方を見直すきっかけになった。
 より効率的に、よりスマートに。世の中は生きやすくはなっているが、それとはトレードオフになって失われたもの、新たに出てきた問題点、それに対する作者なりの一つの解答例であったように思う。
 
 言葉の力を今一度信じ、自分なりの言葉の使い方して、自分の在り方を世間に提示していこう、そんな風に思えた読書体験でした。

◆引用

★1

「ぼくみたいなやつ」ではないからこそ、言論の新たな価値を発見できる。「ぼくみたいなやつ」は僕しかいないし、そもそもすでに僕がいるのだから、これ以上必要ない。ぼくは「ぼくみたいじゃないやつ」と一緒に行動することによって、初めてゲンロンを強くすることができるし、多様で開かれた場にすることができるのです。

★2
☆啓蒙とは親密で危険なコミュニケーション
日本のリベラル知識人が活動を大きくする=スケールすることばかりを考え、足元の観客=支持者を失っていったことに対する、僕なりの返答でもありました。
今の日本に必要なのは啓蒙です。啓蒙は「ファクトを伝える」こととは全く異なる作業です。人はいくら情報を与えても、見たいものしか見ようとしません。その前提の上で、彼らの「見たいもの」そのものをどう変えるか。それが啓蒙なのです。それは知識の伝達というよりも欲望の変形です。
 
★3
ソクラテスは哲学者は産婆なのだといいました。皆さんの中にすでにある哲学が生まれ落ちる手伝いをする。それが本来の哲学者の役割です。